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zoom RSS 奥深き。「債務の遺産分割がなされた場合の登記」について(前編):坂本龍治先生

<<   作成日時 : 2014/11/04 00:00   >>

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債務の遺産分割がなされた場合の登記について、
若干の考察を試みたいと思います。

ことはじめに引いておくべきは、昭和33年の登記先例です。


共同相続人の一人のみが債務を引き受けた場合における
共同相続人の債務承継による抵当権変更の前件登記の要否について


共同相続人の一人のみが抵当権付債務を引き受けた場合、
その引受が遺産分割によるものであるときは、
共同相続人全員の債務承継(相続)による抵当権変更登記を経ることなく、
直接当該共同相続人の一人の債務承継(相続)による
抵当権変更登記をすることができるが、
当該債務の引受が遺産分割によるものでないときは、
相続により債務者を共同相続人の全員とする抵当権の変更登記をした上で、
当該債務引受による抵当権の変更登記をなすべきである。
(昭和33年5月10日民事甲第964号民事局長心得通達、
登記研究編集室編『不動産登記先例解説総覧』(テイハン)より抜粋)


そもそもは、
特別受益者の受ける相続分の計算と
相続債務との関係が問題とされたのですが、
ここでは主に「債務の遺産分割がなされた場合の登記」
について考察していきます。


視点としては、
@債務は遺産分割の対象となるか?
A根抵当権の場合にはどのように登記すべきか?
の2つです。


まず、
―@債務は遺産分割の対象となるか?―
について。

前提として、債務(ここでは可分債務を念頭におきます。)
はどのようにして相続人に承継されるかを捉える必要があります。

この点については、古くから激論が交わされてきたところであり、
多様な学説が存在します。


可分債務の相続については、
多数当事者間の債権関係の原則(民法427条)に従い、
相続人の数に応じて相続開始とともに当然に分割されるとする分割債務説、


当然分割されては遺産債権者の地位が
相続開始前に比し不利になることを考慮して、
債務は当然に分割されるのではないとする不分割債務説、


とに大別されます。
(その他にも、合有的個人債務説、合手的共同債務説、などがあり、
 学説の多さからしても民法上の大論点であることが分かります。)


判例はというと、
大審院以来一貫して法律上当然に共同相続人の数に応じて分割されるとし
(大判大正9年12月22日、最判昭和52年2月22日)
前者の分割債務説の立場をとります。


債務承継の局面においては、
債権者と相続人の利害が対立しており、
両者の利益衡量が債務の帰属態様を決する重要要素となっています。


では、―債務は遺産分割の対象となるか?―ですが、
債権者の利益を強調する不可分債務説によれば、
相続債務は遺産分割しうる性質のものではない
との結論に自然と結び付きそうですが、
分割債務説の場合はどうでしょう。


実は、裁判例の大多数が消極にたっています。

「遺産分割の対象となるものは、被相続人の有していた積極財産だけであり、
被相続人が負担していた消極財産たる金銭債務の如きは相続開始と同時に
共同相続人にその相続分に応じて当然分割承継されると解され、
遺産分割によって分配せられるものではない」とするのです
(大阪高決昭和31年10月9日)。
(その他、東京高決昭和30年9月5日、東京高決昭和37年4月13日、
札幌高決昭和41年12月26日、東京高決昭和56年6月1日)


「債務の分割はありえない。それは、義務の処分であるから。」
というのが古くからの便法であるようで
(穂積・相続法234頁、我妻・民法大意(下)586頁等)、
これらを前提にすれば
昭和33年の登記先例は一体何なのだ?
という疑問がどうしても出てきてしまいます。


不動産登記先例解説総覧では、
債務の遺産分割を否定する見解について
「それは、わが民法上、特に遺産債権者の保護の規定が存在しないから、
債権者を保護せんとの趣旨であろう。」としたうえで、
「債権者の同意があれば、分割を否定する必要もないと考えられるから、
遺産の分割の協議は有効になしうる」
と解説されています。


香川保一先生の「書式精義」においても、
「債権者の承諾を得て法定相続人の一人が
その債務を相続することとなつたときは、
遺産分割の効力が相続開始の時に遡つて生ずる」とされているし
(香川保一著「新訂不動産登記書式精義 中(一)」(テイハン)1130頁)
藤原勇喜先生の「体系不動産登記」においても、
「共同相続人間の遺産分割の協議により、
相続人の一部の者が債務を承継することにした場合は、
その効果は相続開始の時にさかのぼる」と記されています
(藤原勇喜著「体系不動産登記」(テイハン)1157頁)。

(ただし、藤原先生の「相続・遺贈の登記」(テイハン)では
「債務引受けが有効に行われるには、債権者の承諾が必要であるが、
遺産の分割には債権者の参加を必須の要件としていないので、
債務は遺産の分割にはなじまないものと考えられる。」と記載されており、
先生はどちらのお考えに立っておられるのかがいまいち分かりませんでした…

私の手元にある本が古く、その後、
改訂等でこの矛盾(?)が解消されているようでしたら、申し訳ありません。)


以上からすれば、
少なくとも法務局相手に債務の遺産分割の可否を論じるときは
「債務の遺産分割はできる!」という結論を導けるように思います。
(もちろん、登記手続の問題として、
昭和33年先例に従った処理が可能であることは、疑いの余地もありません。)



これをひとつ目の問いに対する回答として、
更に思考の針路を奥深くへと向けてみたいと思います。




坂本龍治


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