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zoom RSS 論点整理。「債務の遺産分割がなされた場合の登記」について 3:筒井一光先生

<<   作成日時 : 2014/12/25 00:00   >>

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承前。

【5 債務の遺産分割と根抵当権の債務者】

根抵当権の債務者の地位自体を分割できないとなると,
やはり,債務の分割,すなわち,
遺産分割で相続人の1人が被担保債務を引受け,
その効果を根抵当権に及ぼすことができないか。
が問題となります。
これは実体上の問題ですが,仮にそのような解釈が可能ならば,
遺産分割の遡及効を使い,直接相続を原因として
遺産分割で定めた相続人のみを債務者とする登記は可能。
ということができるはず。
つまり,ようやく昭和33年先例が根抵当権に適用できるか否かの検討
となるわけです。

ここでのポイントは債務の遺産分割の可否ではありません。

債権関係の変動が根抵当権の内容を変更するか。

つまり,附従性・随伴性を認められるかです。

前々回の2で述べたとおり,
債務の遺産分割の実質は債務引受ですから,
遺産分割の効果がさかのぼって生じる相続開始時点において
被担保債務の引受によって,
根抵当権に権利変動が生じうる
(=随伴性がある)のであれば,
昭和33年先例の適用を認めて差し支えないことになります。

元本確定後の根抵当権の債務者に相続が開始した場合は簡単です。

相続開始時,既に付従性・随伴性を回復していますから,
相続開始時点にさかのぼって債務引受の効果が生じれば
随伴して根抵当権の債務者も引受人へと変更されます。

つまり,根抵当権の債務者が被相続人から
直接引受人である特定の相続人のみに変更される
といいうるのです。

これに対して,確定前の根抵当権で
債務者に相続が開始した場合はどうでしょう。

合意の登記がされた場合は確定せず継続しますから,
被担保債務の債務者が変更しても
根抵当権の被担保債権決定基準である債務者は変更しません。

債務の遺産分割は可能という立場を取ったとしても,
引き受けられた相続債務が担保されなくなるのみです(民398の7U)。
これを再び担保するには
根抵当権者と設定者による根抵当権の変更契約が必要です(民398の4)。


【6 合意の登記がされないことによる遡及確定擬制の場合】

次にいよいよ,
相続開始後6か月以内に合意の登記がされなかった場合。

坂本先生の記事の核心論点となる部分です。
http://next-stage.at.webry.info/201411/article_3.html
確かに,この場合,相続開始時に確定したものとみなされますから(民398の8W),
確定後根抵当権の被担保債務についての遺産分割(債務引受)
と同視したくなってしまいます。

しかし,ここは厳密に考えてみてください。

さかのぼって遺産分割の効果が生じ,
かつ,確定が擬制される相続開始の瞬間における根抵当権の状態は
確定後と断言できるでしょうか。

民法398条の8第4項の遡及効を強調しても,
相続開始のまさにその瞬間は,
確定後の初めであると同時に確定前の最後の瞬間でもあります。

これを確定後と言い切るのには無理があるのではないでしょうか。

また,前回の3で紹介した立法担当者の見解によれば,
相続開始後も「確定しない根抵当権ということでずっと続いている」
(商事法務研究会「新根抵当法の解説」p165;根抵当権者の相続に関して清水湛発言)
と,相続開始の瞬間は,どちらかといえば確定前の状態と理解しているようです。

ところで,たとえば,当事者が根抵当権の元本確定合意と,
被担保債務の引受を同時に行った場合,
根抵当権で引受債務を担保させ続けたいと考えるのが通常ですから,
契約順序は@確定合意→A債務引受の順とみて,
確定後根抵当権の被担保債務についての債務引受と解釈することができます。

「合理的意思解釈」ってやつです。

しかし,今回のケースは,相続開始時の遡及確定も,遺産分割の遡及効も
法律の規定によるものですから,
当事者の意思が入り込む余地はありません。

したがって,例え当事者が,
債務承継に伴って根抵当権の債務者も
被相続人から直接特定の相続人に変更されたことにしたいのだ
と考えていても,
遡及効果の発生時期をずらしたり,
随伴性の有無をコントロールしたりすることはできないでしょう。

そうすると,相続開始時点で既に確定後の状態にある
と断言できない限り,
確定前の根抵当権について債務引受があっても
根抵当権の債務者は変更しないのと同様,
債務の遺産分割に随伴して
根抵当権の債務者が変更することにはならない
と考えられるのではないでしょうか。

この局面については,次のような説明もされています。

「根抵当取引が終了する場合は民法398条ノ8条第4項に基づき元本の確定が相続時に遡及するものとしていて、法律の規定によるフィクションが介在するわけです。すなわち、元本確定前の債務者の相続による債務者の変更と、元本確定後における遺産分割に基づく債務の承継による債務者の変更との間に、398条ノ8第4項という法律上のフィクションを介在させるわけで、その場合にまで遺産分割の効果を相続開始の当初に遡らせてよいものかが問題なのです。一括してすればよろしいのではないかという考え方もありうると思うのですが、フィクションを二つ重ねることは適当かどうかという話になってくるわけです。根抵当権について遺産分割の遡及効が及ぶことを前提とすれば、民法398条ノ8の規定の仕方が今とはまったく異なったものとなっていると考えられます。」(「登記情報」452号p36 南敏文「根抵当権の被担保債権の債務引受について」)

さらりと読むと法律上の擬制効果の重複が不適当という趣旨のようですが,
一方は民法398の8第2項による物権内容の変更であり,
他方は債権の変動に随伴しての変更となり,
これらが論理的に同時に生じ得るのか
という問題提起と読めなくもありません。
そうすると,やはり,上で述べたように
相続開始時における随伴性がネックとなり,
相続開始後6か月経過により確定した根抵当権については,
仮に債務の遺産分割が可能と解しても,
それに随伴して,
根抵当権の債務者が被相続人から直接特定の相続人のみに変更される
というような権利変動は,実体上,生じ得ない
と結論づけざるを得ないのではないでしょうか。


【7 遡及確定根抵当権につき,遺産分割を原因とする債務者の変更登記の可否】

最後に。
「相続人全員の債務者変更の登記をした後、遺産分割の協議又は審判により、相続人の一部が債務を引き受けた場合は、登記原因は「遺産分割」となる」(藤原勇喜「体系不動産登記」p1556)
http://next-stage.at.webry.info/201411/article_3.html

あるいは,

「@ 相続による根抵当債務者の変更登記(変更後の債務者 BC)
A 元本確定登記(この登記は任意)
B 遺産分割による根抵当債務者の変更登記(変更後の債務者 B)
といった登記の運び方」
http://next-stage.at.webry.info/201411/article_4.html
について。

まず,上記Aの元本確定登記は不要です(登研562号質疑応答)。
@の登記原因及びその日付により,
元本確定が登記記録上明らかとなるからです。

Bの登記が妥当かですが,
(藤原先生の「体系不動産登記」は,
私,あいにく持ち合わせておりませんので,
これが,どのケースについての記述か確認できないのですが。)
確定前の根抵当権で債務者に相続が開始したケースでは,
「遺産分割」を登記原因とすることは適当ではない
というのが,私の考えです。

確かに,上記@の登記を経てBの登記をすれば,
民法398の8第2項に基づく債務者の変更+同4項による確定
→その後の随伴性による変更
という過程を公示できますから,
登記手続上は問題ないかもしれません。

しかし,
原因日付はどうであれ,「遺産分割」を登記原因とする限り,
その効果は相続開始時に遡及して生じることになりますから,
実体上あり得ない権利変動の公示となってしまうのではないでしょうか。

では,どうすればよいか。

そもそも,債務の遺産分割の実質は債務引受なのですから,
「(免責的)債務引受」を登記原因とすれば問題はないと思います。

この場合,改めて債務引受契約書を作成できれば,
スッキリするのでしょうが,
必ずしもその必要があるわけではなく
(債権者の同意又は承諾を得た)債務引受を内容に含む
遺産分割の協議書又は審判書は
そのまま登記原因証明情報として利用できる
と考えます。

遺産分割協議書で,
遺産分割以外の法律行為をしても無効なわけではありません。

むしろ,債務引受として有効と評価できて,はじめて,
遺産分割の遡及効云々という話になるわけです。

また,例えば,代償分割の際の相続人固有の財産処分も
厳密に考えれば遺産分割そのものではなく,
その実質は交換,又は贈与です。

そこで,登記実務は,
遺産分割協議書を登記原因証明情報と扱いつつも,
登記手続上は交換又は贈与に準じた取扱いをしています
(登研652質疑応答,同528質疑応答)。

もしも,債務引受が遺産分割と不可分とでもいわれるならば,
代償分割の相続人固有財産の処分の場合に準じて,
登記原因を「遺産分割による債務引受」とすることも考えられます。

が,判例・通説が実体上,債務の遺産分割を認めず,
昭和33年先例が飽くまで登記手続上の便宜的取扱いにすぎないことを考えると
同先例を適用できないケースでは,
たまたま,遺産分割協議書の中で同時に債務引受をしただけ,
と評価するのが妥当なのであって,
それをストレートに登記原因に表現すれば,
「(免責的)債務引受」以上でも以下でもないんじゃなかろうか
と考えます。


【8 結び】

現状,私が到達した結論は,
「昭和33年先例は登記手続上の便宜を大幅に考慮しているため,
わかりにくくなっているが,
根抵当権に関するケースは登記手続上の問題ではなく,
ほぼ100%実体のシビアな解釈の問題なのだ」
といったところです。

「根抵当権」「相続」「遡及効」は
それぞれ単体でも複雑怪奇なのに,
これらをすべて乗じた本問は,超ディープ(笑)。

まだまだ,議論の余地,
ツッコミどころはいくらでもある気もします。

さらに奥深く検討を重ね,もう少しわかりやすく説明する。

あるいは,確定前相続のケースでも,
昭和33年先例を適用できる筋道を発見したいものです。

了。


筒井一光

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