「司法書士試験の出題ミスを非難する―商登法記述―」

平成22年度の司法書士試験
第37問の商業登記法の記述式試験では,
新設分割が出題された。

これまで,平成8年,平成14年と
吸収合併の手続を背景に使った問題が出題されたことはあったが,
組織再編そのものが問われたことはなく,
しかも,司法統計上,吸収合併と双璧をなすとはいえ,
組織再編の基本とされる吸収合併を差し置き,
司法書士試験史上初めての
組織再編の本格出題が新設分割であったことで,
不意を打たれた受験生が多く,
試験場が受験生の大きなため息に包まれたことは
容易に想像されるところである。


新設分割の問題は,
問1から問4までで構成されており,
問1では,設立登記の可否を含めて
設立会社の設立登記の申請書記載事項が問われ,
問2では,分割会社について
経由申請しなければならない登記の
申請書記載事項が問われている。

また,問3では,
株主から分割型会社分割の要請があった場合の
債権者保護手続の要否の判断を踏まえ,
当初の分割期日に登記の申請が可能か否かの結論と理由が,
問4では,設立会社が分割会社と同一商号を用いることから
事業譲渡の際の商号続用の
譲受人の責任が類推適用される可能性を踏まえ,
免責の登記の必要性と理由が問われている。

上記4つの問によって,
ほぼ新設分割の主要論点が網羅されており,
問題の完成度は,従来になく高いと評価できるが,
問1の設立登記中の設立時監査役の論点は,
二重解答となる「出題ミス」であり,
画竜点睛を欠く結果となっている。

以下,設立時監査役の問題点を検討する。


別紙2の新設分割計画書の第3条には,
設立時監査役としてBが定められている。

監査役は,定款の定めによって設置できる
任意機関であるため(会336Ⅱ),
監査役を置く旨の定款の定めが確認できなければ,
監査役設置会社の旨と
監査役の氏名を登記することはできない。

新設分割では,
分割計画書に設立会社の商号,目的,
本店の所在地,発行可能株式総数(会763①)の他,
それ以外の定款で定める事項(会763②)を
定めなければならないとされており,
本問では,分割計画書の別紙として「乙定款」が示されている。

当該定款には第1条から第6条,第22から第23条,第25条,
第30から第31条としての定款の定めの内容が示されているものの
監査役を置く旨の定めは示されていない。

なお,乙定款の上記以外の定めは
「(中略)」として省略されており,
答案作成上の注意事項1で,
「(中略)」部分には,有効な記載があるものとされている。

さて,一般に試験では,
明示されていない事実は
無いものとして問題を解かなければならない。

そうでなければ,
受験生が明示されていない事実を自由に補って,
問題を作り替えてしまえるからである。

この一般論に従う限り,
乙定款の「(中略)」部分に監査役を置く旨の
定款の定めがあると解釈することは許されず,
設立時監査役を分割計画書で
選任しているものの定款の定めを欠く場合として,
監査役設置会社の旨及び監査役の氏名は,
問1の登記すべき事項として記載できず,
添付書面として設立時監査役Bの就任承諾書を
添付することはできないという答案を作成すべきことになる。

この1つ目の考え方は,
素朴であるが,登記官の形式審査上も
乙定款に定めが確認できなければ,
法24条9号で申請が却下されるため,
考え方の基本となり得るものといえる。

これに対して,条文上「監査役設置会社である場合」,
設立時監査役の氏名を新設分割計画に
定めなければならないとされており(会763④ロ),
本問では,別紙2の分割計画書第3条で
設立時監査役が定められているため,
当該事実は,監査役を置く旨の定款の定めの存在を
推認させる有力な間接事実となる。

また,乙定款第22には,
監査役の任期の定めが設けられており,
監査役を置くからこそ任期を定めることに意味があるという点で,
これもまた監査役を置く旨の定款の定めの存在を
推認させる有力な間接事実となる。

これら間接事実によって監査役を置く旨の定めの存在が,
蓋然性高く推認できることになるため,
答案作成上の注意事項1により,
乙定款の「(中略)」部分には,
有効な記載としての監査役を置く旨の定めが
存在すると判断できることになる。

したがって,設立登記の登記すべき事項として
監査役設置会社の旨及び監査役の氏名を記載し,
添付書面として設立時監査役Bの就任承諾書を
添付するという答案を作成すべきことになる。

この2つ目の考え方は,間接事実による推認が,
一般人をして疑いを容れない高度の蓋然性にまで高まれば
(定款の定めの存在につき証明度に達するレベル),
定めの存在を断言できることになり,
上記1つ目の考え方を淘汰できることになる。

出題者がこのように考えて問題を作った可能性が考えられるが,
本問の資料だけで単純に
「高度の蓋然性」に達したと判断するのは疑問であり,
上記1つ目の考え方を淘汰したとまでは言えないであろう。

このように本問は,
①直接証拠に当たる乙定款に
監査役を置く旨の定めがないことを根拠として
監査役設置会社の旨及び監査役の氏名を
登記しないとする答案を作成することも,
②有力な間接事実から乙定款の「(中略)」部分に
監査役を置く旨の定めがあると蓋然性高く推認できることを根拠として
監査役設置会社の旨及び監査役の氏名を
登記するとする答案を作成することも可能であり,
二重解答が生ずる出題ミスとなる。

したがって,受験生全員に対して無条件で,
監査役に付与されるはずの得点を加点する措置をとるべきことになる。

この出題ミスは,
不登法で述べた別紙5の出題ミスに共通するものと推測される。

おそらく,出題者は,不登法については,
論点をストレートに判断する追加設定契約の事実を明示すれば,
問題が簡単になり過ぎることを心配したのであろうし,
商登法では論点をストレートに判断する
監査役を置く旨の定款の定めを明示すれば,
設立時取締役との対比の面白みが半減すると考えたのであろう。

そのため,いずれも
論点をストレートに判断する事実を
明示することを意図的に避けた。

しかし,不登法では,
答案作成上の注意事項1の指示が
正確に受験生に伝わらない曖昧なものであったことも関連し,
別紙5が,及ぼす変更を抵当権変更契約として
行うことの可否の論点と誤導する方向に作用し,
商登法では,監査役を置く旨の定めが
あるともないとも判断できる状態となり,
二重解答状態に至ったのであろう。

いずれにせよ,書式の問題は,法律問題として,
法律要件に該当する事実に基づく判断を
ストレートに受験生に要求すべきであり,
それを正面から問うのが正しい問題の在り方といえる。

問題の完成度や面白みを求めるその気持ちも,
同じ問題の作り手として分からなくもないが,
それらを実現するには,
相当数の失敗を重ねた上での「熟練」が必要なのであり,
たった4~5回連続して問題を作ったところで,
その域に達するには,無理があるというしかない。

むしろ,不登,商登の各問が,
司法書士が実務の現場で
真に求められている機能を反映したものとなっており,
各問をみれば,
司法書士が実務において果たすべき機能が透けて見え,
受験生が何を勉強すればよいのかが明確となるような
そんな問題を目指すべきである。



蛭町 浩

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この記事へのコメント

M.N
2010年08月04日 00:03
1日の公開講座ではお世話になりありがとうございました。                     登記法への民訴からのアプローチは、私にとって非常に刺激的なものでした(先生が、登記法と訴訟法を並列的に扱っておられるのを拝聴する度に「視界が開ける解放感」のようなものを感じ、アドレナリンが出ます)                      毎回お時間を割いていただいていることにも、感謝の気持ちで一杯です。蛭町先生が手を引いてくださるおかげで、腐らずになんとかフォーカスすることができています。       「試練」が続きますが、しっかりやっていこうと思います。今後ともよろしくお願い致します。
M.N
2010年09月21日 23:57
昨日はありがとうございました。少し、自信がつきました。

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