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zoom RSS 「−宿題の解答−(後編)」:坂本龍治先生

<<   作成日時 : 2015/01/07 01:46   >>

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なぜ別途の債務引受が不要か?

それは、
―債務の遺産分割が、債務引受契約を包含するから―
です。

「事案その3のケースにおいて、どのような登記をすべきなのか?」
を検討するにあたって、まず実体面を整理しておきたいと思います。

法律効果というのは、
法律要件が満たされることにより生ずるわけですが、
債務引受により引受人の債務が発生するための要件は

@ 債務の発生原因事実
A 債務引受けの合意
B 債権者によるAの利益を享受するとの意思表示

の3つとされています
(岡口基一著「要件事実マニュアル1 第4版」(ぎょうせい)。

3つの要件のうち、
Aの事実は“遺産分割協議”という形でなされていても
認定することが出来ます。

だから、債務の遺産分割は債務引受契約を包含すると言えるのです。

登記研究編集室編「不動産登記先例解説総覧」(テイハン)597頁〜でも
「実質的には一種の免脱的債務引受があり」と論じられています。

ついでにこの辺りで、債務引受についても整理しておきたいと思います。

債務引受は、債務の同一性を維持しつつ債務を契約により移転すること、
などと説明されます。

実のところ、民法上に規定はないのですが、
これが可能であることに判例•学説ともに異論はなく
(併存的債務引受につき大判大正15年3月25日、
 免責的債務引受につき大判大正10年5月9日)、
司法書士実務においても頻繁に遭遇する行為です。

債務引受には併存的債務引受と免責的債務引受とがありますが、
遺産分割による債務引受を検討する前提として理解を深めておきたいのは、
免責的債務引受の方です。

遺産分割による債務引受が行われる場合には、
債務の引受人のみが相続債務を負担するのだと、
当事者が考えているケースが一般的であろうからです。

免責的債務引受の態様には次の3つがあります。

1.債務者と引受人との合意でする
2.引受人と債権者との合意でする
3.債権者、債務者、及び引受人という三者が合意してする
といった具合です。

そして、遺産分割による債務引受けと類似するのは、上記1の、
債務者と引受人との合意でなされる場合です。

遺産分割協議の当事者はあくまでも相続人であり、
債権者は遺産分割において部外者に過ぎないからです。

しかし、債権者が部外者扱いされ、まったく関与の余地がない状態で
債務引受の効果を生じさせてしまうと、債権者の保護に欠けてしまいます。

そのため、
債務者と引受人との合意でなされる場合には、
一般的には債権者の承諾がなければ
免責的債務引受の効力が生じないとされており、
このことは遺産分割により債務を引受ける場合にも妥当します。

したがって、債権者の承諾があれば、
遺産分割による債務引受けも実体上有効と解し得ます。


ここまでの整理を前提とすれば、
事案その3のケースにおいては、
@ 相続による根抵当債務者の変更登記(変更後の債務者 BC)
A 元本確定登記(この登記は任意。
試験的には最小件数で登記すべきなので省略すべき。)
B 債務引受による根抵当債務者の変更登記(変更後の債務者 B)
という登記の運び方が可能となりそうです。
(以下、ここで示した@⇒(Aは省略すべき)
⇒Bの登記を★と表現していきます。)

しかし、この登記が実体を正確に反映した公示と言えるのか?
当初、私は非常に強い疑問を感じていました。
(後で説明するとおり、最終的には★の登記が最も妥当だ、
という結論になるのですが。)


というのも、
遺産分割で債務を引受けた場合、
通常の債務引受契約では認められない遡及効が
そこには存在するのだろうと思われたからです。
(ここが混乱の原因です…)

それは、香川先生や藤原先生の本に次のとおり記述されているからです。

<参考>香川保一著「新訂不動産登記書式精義 中(一)」
(テイハン)1130頁
「債権者の承諾を得て法定相続人の一人が
その債務を相続することとなつたときは、
遺産分割の効力が相続開始の時に遡つて生ずる
<参考>藤原勇喜著「体系不動産登記」(テイハン)1557頁

「共同相続人間の遺産分割の協議により、相続人の一部の者が
債務を承継することにした場合は、その効果は相続開始の時にさかのぼる


そして、遺産分割で債務を引受けた場合、
通常の債務引受契約では認められない遡及効が存在するのだと仮定すると、
★の“B債務引受による根抵当債務者の変更登記”では
相続開始の時点で生じている債務を
相続開始時点に遡って引受人が引受けたという公示がなされないのではないか、
という疑問が私の中で生じていたのです。


さりとて、★のBに代えて、
B “遺産分割による”根抵当債務者の変更登記(変更後の債務者 B)
という登記をするのも消極に解すべきです。

以前紹介したとおり、
「相続人全員の債務者変更の登記をした後、
遺産分割の協議又は審判により、
相続人の一部が債務を引き受けた場合は、登記原因は「遺産分割」となる」

とする藤原先生の見解もあるのですが
(藤原勇喜著「体系不動産登記」(テイハン)1556頁)、

少なくとも、根抵当権の、しかも事案その3のケースにおいては
消極に解するのが穏当でしょう。

「体系不動産登記」で上記のとおり記述されているのは、
前提が抵当権の場合であり、根抵当権については論じられていません。

仮に「年月日遺産分割」と登記するとすれば、
債務引受についても相続開始の時点まで遡及させる公示となってしまい、
民法398条の8第4項に基づく確定の効果が相続開始時に遡及することとの
整合性が取れなくなってしまいます。

ここの説明は、筒井先生の「3」の記事を是非お読みになってください。


はなしを戻して、
★の“B債務引受による根抵当債務者の変更登記”
の妥当性についてですが、
そもそも、
遺産分割で債務を引受けた場合、
通常の債務引受契約では認められない遡及効が本当に存在するのか?
という点も検討しなければなりません。

私は当初、遺産分割による債務の引受けが行われる場合には、
相続開始の時点で生じている債務を引受人が引受けるものとする
一種の遡及効が債務引受に付加されるのだ、
と考えました。

債権者も引受人のみが相続債務の一切を負担するもの
と考えるのが通常であり、
最も考慮されるべき債権者を害することもないから、
合意による遡及を認めても良いのではないかと。

そして、ここでの遡及効というのは合意により付加されたものであり
法律上規定されていることで生ずる遡及効よりも、
緩やかに捉える事ができるのではないか、
そうだとすれば、
民法398条の8第4項に基づく確定の効果が相続開始時に遡及することとの
説明もつくのではないかと。


しかし、そもそも効力を遡及させるという法擬制には、
法律上の根拠を要します。

たとえば、無権代理行為の追認に関する民法第116条は
「契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。」と規定していますが、
この規定があるからこそ、遡及効が生まれるのです。


では、先に紹介した香川先生や藤原先生の記述をどう理解すれば良いのか。

ここは、
手続上の便宜的取扱いを認める
昭和33年先例に配慮した記述がなされたに過ぎない、
と読んでおくのが穏当、ということになるのではないかと思います。

ということで、
実体面としては
債務の遺産分割は認められない、
債務引受に遡及効を付加することもできない、
純粋な債務引受契約が認定されるにすぎない、

しかし、
手続的には、
遺産分割中で債務引受がなされた場合、
便宜的な取扱いが認められるケース
(<事案その1><事案その2>)がある、
という整理になろうかと思います。


ということで、これにて一旦の終止符を打たせて頂きます。

ここまで大変長い説明にお付き合い頂きましてありがとうございました。

そしてまた、筒井先生には大変助けられ、感謝しております。


坂本龍治

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